「うさぎと亀」心書vol.27

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エジプトへ留学中、語学学校での最後のテストの日、

わたしは赤痢にかかった。

前にも心書に書いた通り、

わたしは自他共に認める落ちこぼれ生徒だった。

通っていた語学学校は1つレベルが上がる度に

1人が試験に落ちるというシステムだった。

『いつか試験をパスできないんじゃないか。』

と思いながらも、どうにかわたしにとっては最後のテストの日がきた。


今までの筆記テストとは異なり、事前に1冊の物語が渡され、

それを暗記するというテストだった。

わたしは一生懸命訳したが、他のクラスメイトのように丸暗記できる自信がなく、

自分なりに、自分のわかる単語で物語を暗記した。

周りのクラスメイトからしたら、

わたしが試合放棄したかのようにうつっていたかもしれない。


試験当日、吐き気と下痢がおさまらず、

試験へ行くことを諦めようかとも思ったが、

ルームシェアしていたお姉さんの力を借り、

どうにかタクシーで登校した。

テスト開始まで別室で寝かせてもらい、試験に挑んだ。


自分の順番がくるまで、わたしはずっと目を瞑っていた。

クラスメイトが順番に答えていく。

質問は3つあり、1つ目は物語を説明すること、

2つ目と3つ目は物語の内容に関することだった。

クラスメイトは暗記した物語を間違えることなく答えていく。

ルームシェアしていたお姉さんが答えるのを聞いていたら、

わたしの番がきた。


わたしは自分が知っていて、間違えずに使える単語で物語を説明した。

先生は驚いたのか、わたしが答える時間は他のクラスメイトより長かった。

物語に関する質問もわたしの答えは先生が用意していた答えとは異なったようで、

「なぜそう思うのか?」

と聞かれ、一生懸命自分の言葉で答えた。


終わった瞬間、みんなが拍手してくれた。

いつも横で勉強していた

スーダン人のクラスメイトがウィンクしながら

「よくやった!」と言ってくれた。


その後はひたすらまた目を瞑って、

他のクラスメイトの試験が終わるのを待った。

再試験を受けるクラスメイトが先生に呼ばれたが、

わたしは呼ばれなかった。


「わたし、明日また再試験?それともダメだった?」

と聞くと、スーダン人のクラスメイトが

「何を言ってるの!合格よ!!

 素晴らしかったわ。」

と言ってくれ、

自分のことのように興奮してくれていたことを鮮明に覚えている。

彼女とわたしはいつも先生から怒られていたから

2人共合格できるとは思っていなかった。


ルームシェアしていたお姉さんは再試験組だった。

いつもお姉さんはクラスでも成績が上位だったので、

試験をパスできないとは誰も思わなかった。

お姉さんと落ちこぼれのわたしを比べて、

「なぜ、日本人なのに◯◯はできないの?

 ◼️◼️を見習って勉強しなさい!」

と毎日、耳にタコができるぐらい先生にはお説教されたものだ。


正直、何度もアラビア語の語学学校を辞めようと考えた。

一緒に暮らすお姉さんと語学学校でも大学でも比べられ、辛かったからだ。

でも、辞めなかった。

辞めることは逃げることだと思っていたし、

最悪、いつでも辞められるとも思っていた。


あの日、うさぎと亀の亀の気持ちが少しわかった気がした。

お姉さんに勝ちたかったのではない。

自分で自分の努力を認めたかったし、

結果ではなく、最後までやり遂げたかったのだ。

きっと亀はうさぎに勝ったことより、

完走できたことを喜んだに違いない。


お姉さんにはたくさん迷惑をかけたが、

色んな大切なことを教えてもらったと感謝している。