「冬」心書vol.37

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「あんた、取引先に倒産されたことあるか?

 ないなら、あんたはまだ半人前や。」

30歳になるかならないかの頃、

お取引先の社長から唐突に言われた。

「『あそこの取引先まずいかも。』って思ったことはあるやろ?

 大体はそこで手を引く。

 危ないことに気付かへんっていう選択肢は除外や。

 でも、もしその会社が息を吹き返したら

 あんたとは付き合わんわな。」


社長は見た目がかなりいかつくて、

どこへ行っても危ない世界の方だと勘違いされると

いつも笑っておっしゃる。

本当はすごく優しい心の持ち主だ。


 「わしは決してあんたに負債を被れと言ってるわけじゃないからな。

 『あっまずいかも。』って気付いた時に

 『よし。騙されてやろう。最後まで付き合うわ。』

  と思える取引先と出会ったら、何回かに1回はやっぱり倒産する。

  でも、何回かに1回は息を吹き返して、飛躍することがある。

  あんたが決死の覚悟で向き合える先に出会えたら1人前になれたってことや。」


コロナの影響で所謂〝与信管理〝のお話を

お取引先様にさせて頂かないといけない機会が増えた。


先日、部下のお取引先様へお伺いした際、

先方の課長から

「弊社と絶対に取引を継続するんだと腹が括れていないから

 会社から言われるがままになっているのではないか?」

というお言葉を頂いた。

おっしゃる通りだ。

お話をすればする程、気持ちが揺らいでいたからだ。

あまりに方向性が異なるがゆえに、

『当社以外のパートナーを探された方が良いのではないか?』

という言葉が何度も頭をよぎった。


私はこのお取引先様を営業担当として担当させて頂いたことがない。

『自分がもし担当したことがあっても同じ対応をしたか?』

『数字だけで判断していないか?』

ということは何度も考えてきた。

答えは変わらなかった。

むしろ、自分の担当先ならもっとスパッと伝えているし、

もしかしたら、既にお取引をやめているかもしれないと思った。


『何が引っかかるのか?』

ということも何度も考えてきた。

大変失礼ながら、心が高まらないのだ。

経営者やその側近の方々とお話していて

必死な気持ちが伝わってきて、

『これはどうにかお力になりたい!』

と思ったり、

一緒にお仕事させて頂くことにワクワクしたり、

気持ちが高揚しないのだ。

お話をすればする程、気持ちが沈んでしまうのだ。

『これは私の心の問題なのかもしれない。』

『私の心自体が凍ってしまっているのではないか?』

とも何度も考えた。


今の両社の関係は季節でいうなら、冬だ。

かなり冷え切っていて、寒さが身にしみる。

でも、寒い冬があるからこそ、暖かい春が待ち遠しく思える。

また、寒いからこそ、人の温かさが普段以上に有難かったりもする。


与信の件で伺う時はいつも

『私はまだ1人前になれていないんだろうか?

と考える。

私、1人前になれたと思います。

 倒産はされなかったんですけど、、、。」

と、いつか社長にお話したい。


着地点はまだ見えていないが、

お互いに思い残すことがないよう、

春を待ちながら、しっかりと冬の寒さに耐えたいと思う。