「プラスアルファ」心書vol.40

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エジプトへボランティアに行く直前、

幼馴染を訪ねてポーランドへ行った。

幼馴染がポーランドで結婚することになったからだ。

『どうやってポーランドまで行こうか?』

と考えた結果、ドイツから夜行列車でポーランドへ移動することにした。


そのことを幼馴染へ伝えると

「危ないし、嫌な思いをすることが想像できるからやめて。」

と言われたが、既に切符を購入していたこともあり、

当初の予定通りドイツから夜行列車でポーランドへ向かうことにした。


幼馴染からは列車を乗り継ぐ駅がかなり治安が悪いと聞いていたので、

20代半ばのわたしはだいぶ警戒していたが、

どうにか無事に夜行列車に乗ることができた。

アジア系の見た目がかなり目立っていたらしく、

夜行列車の窓から身を乗り出している人達から

すごい注目を浴びて乗車することになった。


幼馴染から、夜行列車ではスリや強姦にあうリスクが高いから、

とにかく気をつけるようにと何度も言われていたので覚悟はしていた。


背負っていたバックパックを枕にし、

パスポートとお金は背中の下にして、横になった。

そうこうしていると、女性の車掌さんがパスポートチェックにきた。

女性の車掌さんは驚いた顔をして、

わたしにどこまで行くのか尋ねた。

行き先を伝え、パスポートを見せると、その女性の車掌さんは

「少し待っていて。」

と言って、どこかへ行ってしまった。


こういう時、待ち時間はとても長く感じる。

『眠たいなぁ。』

と思いつつ、待っていると、女性の車掌さんが戻ってきて、

パスポートを少しの間貸して欲しいと言う。

すごく迷った。

『〝命の次に大切なパスポート〝を渡してしまって良いのか?』


迷っていることが女性の車掌さんにも伝わったらしく、理由を教えてくれた。

外国人のパスポートチェックは夜中にも何度も行われるらしく、

彼女はわたしが何度も起こされること、

また、強姦などにあわないかを気にしていることを話してくれた。

一度のパスポートチェックで終わらせてもらえないか、

責任者の許可を取るためにパスポートを貸して欲しいとのことだった。

わたしは彼女を信じることにした。


もう既に夜中でかなり眠たく、待ち時間がとても長く感じたが、

女性の車掌さんが年配の車掌さんと一緒に戻ってきてくれた時はホッとした。

「私、隣の部屋に居させてもらうことになったから、

 何か困ったことがあったら、直ぐに隣の部屋へきて。」

と彼女は伝えて、

「おやすみなさい。」

と言って、去って行った。

夜中にわたしはパスポートチェックを受けずに済み、朝までぐっすりと眠った。


朝、目が覚めると、窓の外は既に明るくなっていたが、

今、どの辺りを列車が走っているのかわからなかった。

部屋の外に出て景色をみていると、女性の車掌さんが声をかけてくれた。

わたしが降りる駅まで後どれくらいか気にしていることがわかると、

到着する前にきちんと教えてくれるとのことだった。

部屋へ戻り、ベッドでゴロゴロしながら過ごしていると、

女性の車掌さんが来る前に、わたしの上の段で寝ていたおじさんが、

次がわたしの降りる駅だと教えてくれた。


同じ部屋のおじさんと女性の車掌さんにお礼を伝え、

わたしは夜行列車を降りた。

幼馴染と婚約者がホームまで迎えに来てくれていた。

わたしが女性の車掌さんに大きく手を振っているのをみて、

2人は驚いていた。


「夜行列車は大丈夫だった?」

と聞かれ、とても助けられたことを伝えた。

「そんな話聞いたことがないよ。

 ◯◯は本当にラッキーだ。」

と2人から言われた。


長年、ポーランド社会主義の国だったから、

プラスアルファのサービスをすることに不慣れだと

幼馴染の婚約者が教えてくれた。

どれだけ良いサービスをしても、どれだけ悪いサービスをしても

同じお給料しかもらえないから、

みんな、プラスアルファのサービスはしなくなったという話だった。


その話を聞いて、わたしは

『彼女にわたしがすごく嬉しくて、助かったことが伝わっただろうか?』

と気になった。

別れ際に、母が作って持たせてくれた日本の小物を'Thank you'という言葉と共に渡したが、

ポーランド語が話せないことがとても悔やまれた。


きっとプラスアルファのサービスをする根本は

相手に喜んでもらいたいという気持ちじゃないだろうかと思う。

あの車掌さんのお陰でわたしはポーランドを思いっきり楽しめたと

今も感謝している。