「トマトのマハシー」心書vol.52

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エジプトの家庭料理にマハシーと呼ばれるものがある。

味付きのご飯をぶどうの葉に包んだり、ピーマンやズッキーニの中に詰めた料理だ。

他のアラブの国ではひき肉を詰めることもあるみたいだ。

わたしは

「エジプト料理で何が好き?」

って聞かれたら、

「マハシー!」

と答えるぐらいマハシーが好きだ。


ある時、先輩ボランティアからトマトのマハシーがあると聞いた。

それがとても美味で、今まで食べたマハシーの中で1番美味しいとのことだった。

『食べてみたい!』

と思ったわたしはエジプト人の同僚にその話をした。


みんなから

「トマトのマハシーは難しいわ。

 だって、◯◯もわかると思うけど、

 エジプトで売られているトマトってどれも柔らかいでしょ?

 だから、マハシーには向かないのよ。」

ということを言われた。


確かに、エジプトで売られているトマトは完熟のものがほとんどだ。

トマトの中に具を詰めるなんて出来そうにもない。

『食べてみたい。』

と思いつつ、時間だけが過ぎた。


ある日、エジプト人同僚の1人からお家ご飯に誘われた。

お家へお邪魔すると、なんとトマトのマハシーがあった。

「どうしたの?!」

と驚いて聞いたところ、

「◯◯が食べたがっていたから、

 旦那にかたいトマトを探してもらっていたのよ。

 そうしたら『これなら出来るかな?』っていうトマトが見つかったの。」

旦那さんにお礼を伝えたところ、すごく誇らしげに

「どういたしまして。

 ◯◯が喜んでくれて嬉しいよ。」

と言ってくれた。


初めて食べるトマトのマハシーはとても美味しかった。

何より同僚一家がわたしを喜ばせようと思ってくれた気持ちが嬉しかった。

結局、トマトのマハシーを食べれたのはその一度っきりだったが、

今もあの美味しさが忘れられない。