「手」心書vol.61

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「旦那は子どもが欲しいんだと思う。

 だって病院へもう行かなくて良いとは言わないから。」

パン屋さんに並びながら、そう言った瞬間、

友人は泣き出してしまった。


きっと彼女が1番言って欲しい言葉を言えるのは旦那さんだけだ。

目の前で静かに泣く彼女を、コロナで抱き締めることも躊躇われ、

違う方向を見て、静かに待つことしか出来なかった。

自分は無力だと痛感した。


ここ最近、1人の政治家の発言がきっかけで

女性活躍とは?という流れがまたつくられた気がする。

私自身も

〝女性なのに〝

〝女性だから〝

という言葉を今まで数えきれないぐらい頂いてきた。

波風立たせたくないので、

「いやいや。そんなことないです。」

「ラッキーです。」

とか、上手く切り抜けてこれた方だと思う。

でも、世の中、私みたいなタイプばかりではない。


友人が色んなバランスを崩したきっかけは職場の上司がきっかけだった。

「妊活するなら、職場のみんなに公表するように。

 休みを取ってみんなに迷惑をかけるんだから当たり前だと思うよ。」

そう上司に言われたらしい。

彼女は上場企業に勤めていて、同じく30代半ばで順調に係長に昇格した。

課長に昇格できるのは最短でも40代半ば。

ひと区切り着いたこともあり、

係長になる可能性が出てきたタイミングで上司に

「昇格するタイミングで部署替えの可能性があるなら、

 妊活したいと思っているので、申し送りして頂きたいです。」

と伝えたようだ。


彼女の中では、必ず授かるとも限らないので、

職場のみんなにプライベートなことを言いたくないという気持ちが強かったようだ。

上司にはその旨を伝えたが、受け入れてもらえず、

みんなに言わないなら、休みの取得に融通はきかないとなったようだ。

彼女の心が折れてしまった。


きっと女性だけが妊活をするという世の中ではなくなったと思う。

妊活だけではなく、介護や自分の健康で休む人も男女関わらずいると思う。

みんなにとって働きやすい、未来が描ける会社や社会でないと

せっかく頑張ろうと思っている人、頑張ってきた人のココロを死なせてしまう。

彼女と別れた後、そんなことを考えながら、帰宅した。


もし、自分の職場に彼女と同じ立場の人がいたら、

私はすっと手を差し出せる人間でありたい。

私もいつか手を差し出される側になるかもしれない。

その時は手を差し出してくれる人がいる職場にしたいと改めて思った。