「居場所」心書vol.71

f:id:Nabila:20211120143040j:plain

「腰の具合が良くならず、通勤が本当に辛いんです。

 ここ2ヶ月ぐらいよくよく考えたのですが、

 仕事を辞めて、治療と親の介護に専念したいと思っています。」


仕事の話で部下と面談していた際、

不意に彼女からそう切り出された。

急に彼女が腰痛に悩まされ始めて2ヶ月程経ったある日だった。

彼女が長年の同棲相手と別れたことは周りから聞いて知っていた。

正直、50代の女性が職を新たに見つけることの難しさは

採用面接をしているからこそ、思うところがある。

自宅のローンがまだ残っていることも知っている。

急ぎは彼女が感じている通勤時の苦痛を和らげることだと判断した。


「気持ちはわかりました。

 辞めることはいつでもできる。

 もし、治療に専念したいなら、休職制度を使うこともできます。

 前にも話した通り、介護休暇もつかえます。

 まずは在宅勤務をしてみて、様子を見てみませんか?

 お金はあるようで、ないものだし、

 収入があって困ることはないと思います。」


彼女が辞めたいと思っていることをふせ、

会社と交渉し、交代での在宅勤務を導入した。

引っかかったのは話をしていた時の彼女の反応だった。

『本当に腰痛だけが辞めたい理由なのかな?』

と、ふと気になった。


後日分かったことは、新しいパートナーができ、

「生活の面倒をみる」

と言ってくれているとのことだった。

また、腰痛が治らない彼女に対して、仕事を辞めるように言っていることもわかった。

入籍はしないとのことだった。


「本当に大丈夫?

 もう少しよく考えてみたら?」

と話しながら、熱くなっている人、弱っている人には届かないだろうと思った。


高校卒業からずっと彼女は働いてきた。

そのことに誇りもあると感じてきた。

『私にできることってなんだろう?』

と考えて、思ったのは、

彼女が働き続けられるような環境をサポートし、

職場にきちんと彼女の居場所をつくることだと思った。


課長の体調不良、事務員さんの癌再発と

部下達に求められる会社、職場、上司の役割について

考えさせられた約半年だった。

「変な顔」心書vol.70

f:id:Nabila:20210814112002j:plain

「『今日、変な顔だね。どうしたの?』

 ちょっと考え事をしたり、落ち込んだりして帰宅すると

 6歳の姪っ子にそう聞かれるんです。

 よく見ているなぁって姪っ子ながら感心します。

 だからいつも表情だけでも、笑顔でって心掛けています!」


お世話になっているおじいちゃんの体調があまり良くない。

本人がどう思っているかは分からなかったが、

息子さん達が病院に呼ばれていると聞いた。

また、その前、〝奥様とわたしと3人でご飯を食べに行きたい〝

と病院へ話した際、

「是非出かけてください。」

と言われたとも聞き、いろいろなことを考えていた。


おじいちゃんが現役で働いていた頃、

またそれ以降も良くして頂いているお取引先の方々は

いつもおじいちゃんの体調を気にかけて、様子を尋ねてくださる。


「父もお会いして、お話させて頂くことで

 少しでも◼️◼️さん(おじいちゃん)が元気になられるなら

 どうにかしてお会いしたいと話しているのですが、

 治療されている中で、免疫も下がられているかもしれない時に

 万が一、コロナを持ち込んでしまっても

 と、話しておりまして。」


そう話されていたこともあり、

お盆休み前に電話でお話した際に、おじいちゃんの話をした。

きっと、わたしが追い込まれたような暗い声をしていたのだと思う。

おじいちゃんの話をした後、姪っ子さんのお話をされた際に

最初の話をしてくださった。


さりげなく、でも、わたしが何か感じ取れるようにお話くださり、

相手に寄り添うということを教えて頂いた気がした。


『きっとおじいちゃんは良くなる。』

そう信じて、変な顔はやめようと思う。

「夫の家業」心書vol.69

f:id:Nabila:20210724180942j:plain

「後継者がいなかったり、事業の先行きに悩む日本の中小企業は少なくないと思っている。 

 双方にメリットが見出せれば、今後も積極的に事業提携やM & Aしていきたい。」

とあるメディアのインタビューを受けた際の夫の言葉だ。


夫には継ぐ予定だった家業がある。

結婚する際、その地方に住む友人に夫の名字を伝えたところ、

「こっちには有名な▲▲っていう▫︎▫︎屋さんがあるけど、

 変わった名字だね。」

と言われた。

その地方では、認知度が低くないようだ。


世間の夫のイメージは決して良くない。

まだ引退するには若いオーナー社長から経営を引き継いだことや

強引だと思われても仕方のない人事や経営手腕から

色んな噂をされてきた。

確かに若い頃は今よりずっと尖っていたのだと思う。

私も夫のことをずっと怖い人だと思ってきた。


この4連休、初めて夫の実家へお邪魔した。

妹さん達が医療従事者ということや

コロナ感染者数がかなり少ない地域ということもあり、

今まではZoomでしか会ったことがなかった

お義父さんとお義母さん、妹さんとガラス戸越しに会った。


お義父さん、お義母さんは思っていたよりもずっとお元気そうで安心したが、

老化を感じずにはいられなかった。

ご両親の衰えとは相関せず、

家業の跡継ぎは決まっていない。


夫と話していると気付くことが多々ある。

1つは夫にとって〝働くこと〝の根本は故郷にあるということだ。

「小さい頃、お母さんにおんぶされて、

 売掛金の回収へ行った。

 売るだけではなく、代金を頂くまでが商売だと

 両親の背中をみて学んだ。」

と話す夫は、楽しそうだ。


跡継ぎが決まらない家業に思いを寄せる行動の1つが

今携わる会社での事業提携や事業買収なんだと結婚して気付かされた。

夫にとって、それは悪なのではなく、

あくまでその会社がもつ技術を世に残すための手段なのだ。


いつまでも夫の家業がみんなに愛され続ける方法が見つかれば良いなと

実家へお邪魔して改めて思った。

それをきっと夫は心から望んでいると思う。

「機嫌」心書vol.68

f:id:Nabila:20210530225342j:plain

「◯◯ちゃんって本当に分かりやすいよね。

 機嫌が悪いのは眠たい時とお腹が空いた時だから。」

20代半ば、友人と夏休みを利用してトルコへ旅行した際に言われた言葉だ。


そう、わたしは眠気と空腹に弱い。

流石に30代半ばになり、自覚がある。

自分の機嫌は自分でとらなければならない。

だから、睡眠と食事は不足しないよう、心がけている。


しかし、5月はどちらも不足させてしまった。


夫「◯◯と楽しく暮らしたいし、たまには歌でも歌いたいから、

  ギターでも買おうかな?」

わたし「要らんよ。

    ゴルフ、散歩、ガーデニングとか一緒にやりたいこといっぱいあるんでしょ?

    きっとあまり使わないし、要らない。」


わたしが歌うことに苦手意識があることに対して、

苦手意識を払拭したいと夫は夫なりに思ってくれていたようだ。


夫「今度、一緒に人間ドッグ受けようか。

  会社の配偶者割引で安く受けられるし。」

わたし「会社の健康診断申し込んだよ。

    大丈夫だよ。」

夫「でも、人間ドッグではないんでしょ?

  なんでも病気は早く見つけるに越したことはないから。

  2-3万円で受けられるんだし、受けたら?

  子宮癌とか乳癌とか若いんだし、心配でしょ。」

わたし「そんなにわたしを癌にしたい?

    会社の健康診断は受けてるし。」


夫は胃癌を患ったことがあり、

わたしの仕事が忙しいこと、

結婚したから更に頑張らないとと思って無理をしていること、

心配してくれていることは冷静になればわかる。


その日、他にもたくさんあった夫からの提案は

わたしにバッサリ却下された。

そんな会話をした後、晩御飯にオムライスを作った。


前日に作ったとうもろこしご飯のリメイクだ。

わたしはとうもろこしがあまり好きではない。

『季節のものを食べて、夫には健康でいてもらいたい。』

という気持ちの方がとうもろこしを食べたくない気持ちより大きかったので、作った。

ネットで調べて作ったトロトロたまごをとうもろこしご飯の上に乗せた。

ケチャップをかけようと思ったが、

うまくケチャップが出てこなかったので、

お皿を台所のふちに置いた。


〝ガシャン!!〝


大きな音を立てて、オムライスが飛び散った。


わたし「ごめん。

    折角うまくできたのに。

    ケチャップなんかかけずに出せば良かったね。」

夫「そんなことより危ないよ。」


2人で無言で掃除をした。


「オムライスが、、、。」

「オムライスが、、、。」

と、わたしがずっと言っていたらしいが、無意識だ。

夫「オムライスを食べられなかったから、

  お腹空いたんでしょ?

  ◯◯はいつもたくさん食べるもんね!

  俺が何か作るよ。」

わたし「要らない。

    お腹空いていない。」


きっかけは夫の些細な行動だった。

きっといつものわたしなら気になっても、

ここまで拗らせなかった。


『まだ一緒に住んでいないから、週末しか会えずにいるのに

 なんでこんなことになっちゃったんだろう。』

と思ったら、すごく悲しい気分になってしまった。


部下が癌治療で入院し、12時間以上会社にいる毎日。

退勤してから、12時間以内には出勤。

帰宅してからは新居への引っ越し準備。

夫の仕事関係の方々への内祝い選びや手配。


新居のことはほとんど夫任せなので、

せめて夫がわたしにして欲しいと期待していることぐらいは

ちゃんとしたい。

晩御飯を食べずにひとまず寝る毎日。


『このままではまずい。』

オムライスが食べられなかったお陰で気づけた。

『夫はわたしが眉間に皺を寄せてまで、

 きっと内祝いを選んで欲しいわけじゃない。』


とは言え、帰りが遅いことは変わらない。

つまりは寝不足と空腹はなかなか改善されない。

話をすれば、また、喧嘩腰になるかもしれない。

そんなことを寝不足の中、悶々と考えた1週間。

昨日、夫の部屋に手紙を置いてきた。

もちろん、ご飯を食べた後に書いた。

わたしが帰宅した後、夫には手紙の場所を教えたので、

読んでくれていると信じている。


明日、2人とも新居へ引っ越す。

自分の機嫌は自分でとれるよう、気をつけたい。

「支え合う」心書vol.67

f:id:Nabila:20210516133222j:plain

この数ヶ月、わたしの心は忙しい。


入籍が決まり、親しくして頂いているおじいちゃん宅へ報告に伺った。

おじいちゃんは私の勤め先で顧問をしていた。

奥様の癌がきっかけで退職をして、今は隠居生活をおくっている。


おじいちゃんとは職場で、上司と部下として出会ったが、

今ではおじいちゃんと孫娘のような関係を築かせてもらっている。

そんなおじいちゃんと夫も知り合いということもあり、

おじいちゃんには直接報告したかったので、

コロナ禍ではあるが、久しぶりにご自宅へ伺った。


おじいちゃんは私が結婚することに驚き、

奥様は嬉しい気持ちと寂しい気持ちで涙を流されていたと後から聞いた。


2時間ほど滞在した後、失礼して、駅へ向かって歩いていると

奥様が走って追いかけてこられた。


わたし「ごめんなさい。わたし、何か忘れ物とかしていました?」

奥様「違うの。話があって。

   コロナなんて気にせずに、また会いに来てあげて。」

わたし「ありがとうございます。

    とは言え、お2人共ご高齢になられてきたので、、、。

    いろいろと難しいですね。」

奥様「違うの。 

   1年前に癌の手術したでしょ?

   本人には知らせていないのだけど、

   実は癌を切除することが出来なかったの。

   余命は3年だと言われたわ。

   コロナでもう1年過ぎてしまったけど。」


ここまで話されて、奥様は涙を我慢できなくなった。


奥様「だから、顔をたくさん見せてあげて欲しいの。」


それから1ヶ月して、定期検査で癌が転移していることがわかり、

おじいちゃん自身も同席で、説明を受けることになった。


おじいちゃんが弱々しい声で電話をくれた。

「あんたの子どもを見るまではと思っていたけど、

 あかんかもしらんなぁ。

 わしが亡くなった後、ヨメさんのことを頼みます。」


おじいちゃんは少しでも長く生きられることを望み、

抗がん剤治療をうけることを決めた。

ステージ4の肝臓癌。


『わたしに何ができるのか?』


仕事中、得意先へ向かい歩きながら2分ほど考えた。

夫に「車を貸して欲しい。」と連絡した。

わたしが車を自ら、それも平日に有休を取ってまで運転することから、

『余程のことがあるんだろう。』

と思ったらしく、理由も聞かずに、〝OK〝と返信がきた。

1回目の退院の際、車で迎えに行くことにした。


「◯月◯日の退院の時、車で奥さんを迎えに行って、

 一緒に病院へ迎えにいきますね。」

と、直ぐに電話をしたら、おじいちゃんと奥様はすごく喜んでくださった。


今月末に新居へ引っ越しすれば、

おじいちゃん宅は今よりずっと近くなる。

今までお世話になりっぱなしなので、

少しでも力になれたらと思っている。

「入籍」心書vol.66

f:id:Nabila:20210508155030j:plain

本日入籍した。

わたし自身、全く結婚する予定がなかったから驚きだ。

夫になってくれる人とは6年前に仕事で知り合った。

それから2人で会ったことは全くなく、

今年1月に初めて2人で食事へ行ったことが始まりだ。


4月から役職がかわることが内定していたし、

〝結婚〝するなんて微塵も考えていなかった。

『当たり前のように、〝結婚しても〝今まで通り仕事は続けられるし、

むしろ、出来る限りサポートする。

◯◯の人生のプラスになれるよう努力する。』

という彼の志に、わたしは一歩を踏み出すことにした。


結婚が決まるまで、決まってから、

お互いの立場もあって、色々な思いが通り過ぎていった。

きっとコロナ前のわたしならこの一歩を踏み出せなかったと思う。

そんなわたしの気持ちを察し、ハードルになるだろう事柄に

1つずつ丁寧に接してくれた夫。


どちらかが人生を終える時に

『夫婦になって良かった。』

と2人共が思えるよう、わたしも夫や夫の家族の人生のプラスになれるよう、

日々努力したい。

「にこにこ」心書vol.65

f:id:Nabila:20210404110057j:plain

父「お母さん、わざわざ▲▲してくれたんや。

  ありがとう。」

母「今まで「わざわざありがとう。」なんて言われたことあった?」


ある朝の我が家での一コマだ。

ここ1ヶ月、母は猛烈にイライラしている。

理由はわかっている。わたしだ。


反対に父の機嫌は悪くない。

それがまた母のイライラを助長しているみたいだ。


4月から役職が変わり、日々、いろいろなことを考える。

役職が変わることは内示が出ていたので、

数ヶ月前から知っていたが、

辞令を受けるまでは何が起きるかは分からないと思っていた。


とは言え、

『私にできることってなんだろう?』

と、部下達と同行する中で考えることが増えた。  


『若いし、女性だし、舐められてはいけないとずっと思ってきたが、

 果たして、それで良いのか?』

ふと、そんなことを考えていた時に

最初の両親の会話が目の前でされ、はっと気付かされた。


『私はいつも難しい顔をしている気がする。

 私が出来ることは基本的に〝にこにこ〝していることかもしれない。』


もちろん、謝罪に伺う際ににこにこはおかしいが、

普段の同行時はにこにこしていたって良いじゃないか、

と気付かされた。


そんなある日、部下の取引先の社長が

「◯◯さんがずっとにこにこ聞いてくれるから、

 要らんことしゃべり過ぎたわ!」

とおっしゃってくださった。

社長のお話が面白かったのだが、

それでもなんだか嬉しかった。


にこにこすることは難しくないようで、

心掛けないとなかなかできない。

眉間に皺を寄せないよう、にこにこ過ごしたい。