「居場所」心書vol.71

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「腰の具合が良くならず、通勤が本当に辛いんです。

 ここ2ヶ月ぐらいよくよく考えたのですが、

 仕事を辞めて、治療と親の介護に専念したいと思っています。」


仕事の話で部下と面談していた際、

不意に彼女からそう切り出された。

急に彼女が腰痛に悩まされ始めて2ヶ月程経ったある日だった。

彼女が長年の同棲相手と別れたことは周りから聞いて知っていた。

正直、50代の女性が職を新たに見つけることの難しさは

採用面接をしているからこそ、思うところがある。

自宅のローンがまだ残っていることも知っている。

急ぎは彼女が感じている通勤時の苦痛を和らげることだと判断した。


「気持ちはわかりました。

 辞めることはいつでもできる。

 もし、治療に専念したいなら、休職制度を使うこともできます。

 前にも話した通り、介護休暇もつかえます。

 まずは在宅勤務をしてみて、様子を見てみませんか?

 お金はあるようで、ないものだし、

 収入があって困ることはないと思います。」


彼女が辞めたいと思っていることをふせ、

会社と交渉し、交代での在宅勤務を導入した。

引っかかったのは話をしていた時の彼女の反応だった。

『本当に腰痛だけが辞めたい理由なのかな?』

と、ふと気になった。


後日分かったことは、新しいパートナーができ、

「生活の面倒をみる」

と言ってくれているとのことだった。

また、腰痛が治らない彼女に対して、仕事を辞めるように言っていることもわかった。

入籍はしないとのことだった。


「本当に大丈夫?

 もう少しよく考えてみたら?」

と話しながら、熱くなっている人、弱っている人には届かないだろうと思った。


高校卒業からずっと彼女は働いてきた。

そのことに誇りもあると感じてきた。

『私にできることってなんだろう?』

と考えて、思ったのは、

彼女が働き続けられるような環境をサポートし、

職場にきちんと彼女の居場所をつくることだと思った。


課長の体調不良、事務員さんの癌再発と

部下達に求められる会社、職場、上司の役割について

考えさせられた約半年だった。